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富山地方裁判所 昭和60年(ワ)188号 判決

原告

浦田阿きわ

右訴訟代理人弁護士

岡本弘

被告

有限会社寿興産

右代表者代表取締役

竹田良夫

右訴訟代理人弁護士

澤田儀一

右訴訟復代理人弁護士

金川治一

主文

一  被告は原告に対し別紙目録記載の土地についての富山地方法務局昭和五八年二月一〇日受付第一四六〇号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

原告は別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。

ところが、本件土地には、主文一項掲記の所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がされている。

よつて、原告は被告に対し本件登記の抹消登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因の事実のうち、原告がもと本件土地を所有していたこと、本件土地に本件登記がされていることは認めるが、本件土地が現に原告の所有であることは否認する。

三  抗弁

1  被告は、昭和五七年一〇月一八日、富山地方裁判所昭和五〇年(ケ)第五九号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)において本件土地を競落し、これに基づき本件登記を経由した。

2  仮に原告が本件土地を所有しているとしても、被告は本件土地に関して生じた次の債権を有するから、留置権の行使として右債権の弁済を受けるまで、本件登記の抹消登記手続に応じられない。

(1) 競落代金 一八九万五〇〇〇円

(2) 登録免許税 八万二八〇〇円

(3) 嘱託登記の郵便代 八三〇円

(4) 不動産取得税 六万三八四〇円

(5) 固定資産税(昭和五八年度ないし同六〇年度分) 三万一〇八〇円

(6) 管理費 三六万円

(7) 地上建物取壊代 七万円

(8) 整地代 一〇一万六〇〇〇円

合 計 三五一万九五五〇円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告が本件土地に関して債権を有することは知らないし、被告主張の留置権は否認する。

五  再抗弁

本件競売事件は無効な根抵当権の実行であるから、被告は競落人として担保物件たる本件土地の所有権を取得するわけがない。

すなわち、原告の夫浦田隆は、知人の福岡徳郎から「中央相互銀行で融資の打診をするのに必要である。」とか、「本件土地上の建物占有者を追い出すため本件土地と右建物の売買を仮装する必要がある。」などと言われ、原告に無断で根抵当権設定契約書、白紙委任状等に原告の印章を押捺した。ところが、福岡は原告名義の右書類を冒用し、昭和四八年七月一一日、本件土地につき、根抵当権者松山朝雄、同設定者原告、債務者福岡徳郎とする極度額二五〇万円の根抵当権設定登記を経由した。そして、高山正国は昭和五〇年六月九日右根抵当権の移転付記登記を経由し、本件競売事件の申立てをした。

このように本件競売事件は原告の知らない間に設定された無効な根抵当権に基づくものであるから、被告は本件土地を競落しても所有権を取得するに由ない(本件競売事件はいわゆる旧法事件であるから、民事執行法一八四条の適用はない。)。

なお、右根抵当権が無効であることは、原告が高山正国を被告として、名古屋地方裁判所に提起の右根抵当権設定登記の抹消登記手続請求事件(同裁判所昭和五一年(ワ)第二〇四〇号)において、昭和五八年一〇月二一日原告勝訴の判決を受け、その控訴審(名古屋高等裁判所昭和五八年(ネ)第六二二号)でも、昭和六〇年四月一六日高山正国の控訴を棄却する旨の判決を受け、同判決が同年五月一日確定したことからも明らかである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実のうち、本件土地につき、原告主張各日時に松山朝雄が根抵当権設定登記、高山正国が同移転付記登記を経由したこと、高山正国が右根抵当権に基づき本件競売事件の申立てをし、被告が本件土地を競落したことは認めるが、その余は知らない。

被告は、裁判所の競売事件において本件土地を善意無過失で競落したもので、当時民事執行法が施行され、いつたん競落すれば競落の効果が覆されることがないものと信じていた。ところが、原告は、本件競売事件の申立てから競落期日までの約七年間、競売手続を停止できたにもかかわらずこれを放置していた。

よつて、本件競売事件の競落においては、原告より被告を保護すべきである。

第三  証拠〈省略〉

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